タウシュベツのめがね橋からしばらく離れた道路沿いに突然現れた喫茶店。
人里はなれて久しいこの場所になぜか無意識に入ってしまった。
TEE-PEEとかかれたお店。
お店に入ると丸太で作られたカントリー風の店内の半分ほどがドライにされたハーブで埋め尽くされている。
1時間ほどマスターと話を交わす。東京出身のマスターがここにきたのは20年も前になるらしい。
「どんな写真を撮るんですか?僕も以前は写真やってたんですよ」
そんな会話からはじまり、長く住んでいると目が麻痺してしまい、今では写真を撮っていないこと。奥さんと独学ではじめたハーブも当時では<蛇のお茶ですか?>なんていわれたこと。来た当初は7年間電気が通じなかったこと。丸太小屋づくりも、身よりもないこの場所を選びゼロからはじめたアイターンも、そのすべてが誰もやっていなかった時代のことだったという。
決して過去を懐かしむような語り口ではなく、今を受け入れて生きる自然体な言葉。この人はいくつになっても、すでに先端なんだ。主人の言葉をかみ締めるようにもらった。
「でもね、東京にくらべこっちには文化を感じる場所や刺激はないよ。ライブにいったり美術館にもいけない。でもね、人は何をつかむためには、何かを捨てないといけないんだよ。」
東京という生活を捨てこの場所を選んだ主人。やわらかい物腰の中に、東京ではなかなか出会うことのない気骨のようなものを持っている人のように思えた。
来年あたりね。
「定住は僕みたいに年寄りになってからでいい。若いうちは色々な場所に行って色々なものを見たほうがいい」
本当にそう思う。はじめて訪れるからこそ見える景色や出会いをまだまだ味わっていたい。こう思えたら新米でも旅人なんだろう。
飽くことのない旅への扉。主人は僕を旅人として迎え入れそして、その扉をやさしく開いて背中を押してくれたような気がする。
「またいらっしゃい。来年あたりね。」
たった数日間で1000kmは走った。この一週間は僕にとって2年分ほどのガソリンになったと思う。
駆け抜けるような、北海道横断の旅。
「またいらっしゃい。」
そんな一言だって生きる力にもなる。
旅人が元気なのにはこんな秘密もあったんだ。