映像の世紀・バタフライエフェクト。音楽が一国の歴史を動かす時。

「ソ連崩壊 ゴルバチョフとロックシンガー」

「ソ連崩壊 ゴルバチョフとロックシンガー」 – 映像の世紀バタフライエフェクト – NHK

西側の音楽は大衆を堕落させるための文化侵略だと、ロックの演奏を禁じられていたソ連で、変化を求めてロックを歌い続けた「キノー」のボーカル「ヴィクトル・ツォイ

ペレストロイカで改革路線を断行していたゴルバチョフとは、「変化」を時代に求めるという意味で、どこか通じていた。

このエピソードは共産圏でありながら、共産党政権による言論弾圧という敵対的なストーリーではなく、改革路線のゴルバチョフと、実はロックミュージシャンの思いが実は水面下では交差していた。という話。

とはいえ、政権というのは常に揺れ動くので、結局のところ、このミュージシャンによってソ連が崩壊し、民主化に向かう。といった一枚岩なシンプルなストーリーではないのが残念なところ。

でも、こうした「音楽」と「革命」をモチーフにしたバタフライシリーズで、特に共産圏の話はとても興味深くて大好きです。

肋骨レコード

ちなみに、本筋とは逸れるのですが、番組で紹介されていた「肋骨レコード」

ただ骸骨がプリントされたレコードかと思っていたのですが、そうではなく、ソ連のアンダーグラウンドで違法に取引されていたレコードのことで、使用済みのレントゲン写真に禁じらていた西側諸国のロックを刻んで販売していたというもの。

Dmitry Rozhkov – 投稿者自身による著作物 CC 表示-継承 3.0

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%82%8B%E9%AA%A8%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89

耐久性も低く5−10回くらいしか再生できなかった。というエピソードも含めて、危険を犯してまで手に入れたレコードをどんな風に聴いていたのか?いまでは考えにくいシチュエーションに想像力が膨らみます。

そのほかバタフライシリーズで描かれていた、同じような路線に、

「ヴェルヴェットの奇跡 革命家とロックシンガー」

ソ連に軍事侵攻をされながらも20年間、抵抗を続けた国・チェコスロバキアの「ビロード革命・ヴェルベット・レボルーション」

時を同じくして、ゴルバチョフが政治改革「ペレストロイカ」を推し進めていた1989年。

社会主義政策に不満を抱いていた学生立ちが蜂起し民主化を目指して無血革命を成功させたのが「ビロード革命」(ヴェルヴェットレボリューション)であり、その名前の裏に米国の同名バンド、ルーリード率いる「ヴェルヴェットアンダーグラウンド」の影響があった。と言うストーリー。

そのきっかけはビロード革命の20年ほど前、改革派の政権によって一旦民主化(プラハの春)を進めたチェコを警戒し、ソ連が軍事介入し、共産党政権による正常化とよばれる言論封鎖や弾圧が続くようになる。

民主化の機運がもりあがっていた当時、チェコの劇作家「ヴァーツラフ・ハヴェル」が公演でニューヨークに滞在した際にレコード店で見つけけチェコに持ち帰った一枚のレコード。

その音楽に影響を受けたチェコのバンド「PPU」が誕生し、やがて、西側の影響を受けた音楽を演奏したことにより当局により逮捕。

ヴァーツラフ・ハヴェルは、PPUの逮捕に表現や言論弾圧に危機感を抱き、「憲章77」という人権運動を起こし、また彼も4年の実刑判決をうけ収監される。

こうした流れは、共産圏の中で自由を求める民主化運動に共通するものでありながら、いみじくも1989年という、ゴルバチョフのペレストロイカやベルリンの壁崩壊など軟化した開放路線に動いた東欧諸国の流れもあり、無血革命が成功し、革命運動の先鋒だったヴァーツラフ・ハヴェルが大統領となる。

彼が大統領に就任した翌年、「ヴェルヴェットアンダーグラウンド」のルーリードは、プラハに招かれ、ハヴェルとの対談を行う。

ルーリードが「なぜヴェルヴェットレボリューションという名前になったのか?」という質問に、ハヴェルは20年前にニューヨークでみつけた一枚の音楽が、チェコの民主化に大きな影響を与え、大事な役割を果たした。と告白する。というストーリー。

ルーリード率いる「ヴェルヴェットアンダーグラウンド」は興行的には成功せず、西側ではあまり多くの人に聴かれることはなかったけど、本人の知らぬ間に、チェコの民衆を動かし、民主化の原動力になっていた。という話。

社会的に抑圧されたマイノリティ(ルーリードはゲイをカミングアウトしていた)の音楽的メッセージというのは、西側よりも、抑圧の続いた東欧の人々の心に届いたのは、想像に難くない気がします。

一人のアーティストや音楽が多くの人のこころを揺さぶる原動力になる。

この話にまた通じるが

「我が心のテレサ・テン」

台湾出身の国民的歌手「テレサテン」を描いた

https://www.nhk.jp/p/ts/9N81M92LXV/episode/te/ZGN6PV1KG3/

これも本当に素晴らしいドキュメンタリーでした。

中国もまた音楽による文化侵略を恐れ、政治的に袂を分けた台湾の国民的歌手、テレサテンの音楽を放送禁止に。

こちらも、禁止されたカセットテープがコピーされて多くの中国国民の心に大きく影響していく。というストーリー。

ソ連の「キノー」や「ヴェルヴェットアンダーグラウンド」とは違い、ロックではなく、日本でも馴染みのある歌謡曲。優しい歌声が、多くの同胞に影響を与えはしても、結局彼女も応援していた、中国の民主化運動も、1989年の天安門事件で叶わぬこととなってしまう。

リアルタイムに彼女が日本のテレビ番組にでていた時代に生きているので、改めてこのドキュメンタリーをみて、彼女がこれほどまで中国の歴史に翻弄されながらも、多くの中国国民の心を動かしていたことに本当に驚いた。

そう考えれば、日本は敗戦はしても、国家の分断や言論弾圧が諸外国よりもなかったので、中国や東欧諸国が民主化に向かった80年代は、むしろ高度成長に浮かれた機微や熱量もない俗で薄い音楽カルチャーだったのかもしれない。なんて、思ってしまった、

「ベルリンの壁崩壊 宰相メルケルの誕生」

こちらも、東ドイツ出身のメルケルが同じ東ドイツ出身で大勢批判を続けていたシンガーのニナ・ハーゲンとすれ違いながらも、同じ目線で開かれた世界を見続けたというストーリー

https://www.nhk.jp/p/ts/9N81M92LXV/episode/te/WKRMK8NPRK/

2021年。メルケル首相の退任式に、ニナハーゲンのこの曲を楽団に演奏させる。というなんとも可愛らしくもあり、また東西に分断された時代を潜り抜けた二人の思いが交錯するなんとも感慨深いエピソードでした。

どれも、一国を変える力が音楽にある。という筋書きは本当に胸が熱い。

ロックと東西冷戦時代のエピソードシリーズでは、メルケル編では音楽部分には深く掘り下げはしないものの、メルケルの人柄やストーリーはこの中で一番のお気に入り。

本当にこのシリーズどれも必見でおすすめ。

映像の世紀バタフライエフェクト

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