ジャンプ

長編小説「ジャンプ」(佐藤正午著)を読む。
痛すぎて笑えない。
主人公の過去の空白を埋めるために苦しむ様。それでも、日常は淡々と流れ続ける事実。
小説を読んでいるうちに物語を客観できる冷静さを完全にうち壊されてしまった。

「リンゴを買いに行ってくる」と言ったまま失踪してしまった彼女を追って真実を追い求めようとする主人公。
サスペンスやミステリーではなくて、誰しもが一つは抱えている、心に空いた穴をその穴を見せずにリアルに描ききっている。人間ドラマ。

自分が人生を選んでいきている実感があったとしても、どこかに空虚さはある。
それは誰かが自分の人生の一部をもっていったまま失踪してしまう感覚に近い。
親しくしていたい人が突然姿を消したら。誰だって自分に自信を無くしてしまう。自分に落ち度がなかったか、心のなかで永遠に取り調べてしまう。
疲れきった顔にデスクライトをあてるように。
いつしかこんな世界を描いてみたいって思っていた。自信を失うほど、素晴らしい作品。

Shareこの記事をシェアしよう!