映画「Into the wild」
胸にずしんと響く映画。
大学を卒業し、裕福に育った家庭も家族もそしてお金も身分証明書もすべて捨てて放浪の旅に出た青年のノンフィクション。
アラスカ・フェアバンクスにたどり着き、野ざらしにされていたバスを根城にし、一人そこで過ごしそして目にした最期。
自由と孤独を求めてたどり着いた先に見たもの。そこに残されていた一枚の写真。
実在のストーリーだけに、誇張した展開で単純に泣かせるような演出はなし。むしろ、旅を続ける主人公を追体験しつつ、傍らから、その思慮深さ故、あさはかに矛盾する若い魂にいらつかされ、共に葛藤し、いつの間にか心を揺さぶられる。
そして、人生の旅をカウチで見ている自分に対して主人公は無言で画面の向こう側から問いかけてくる。映画を観ているというより、旅を共にしながらセリフとは別のチャンネルで主人公と語り合っているかのような気持ちにさせられる。
今に思えば、なぜこの映画を選んだのかが思い出せない。だけど、DVDを手にしたとき、「アラスカ・フェアバンクス」というキーワードが、同じくその場所にいた星野道夫さんのことを連想させたのだと思う。もしかすると、その地名がこの映画を引き寄せたのだろう。
想像でしか感じることのできないアラスカ。その荒野の中でひとり野営している彼の言葉がいまでも、彼の本を読むたびに、その場に静かに座って傍らで聴いているかのように響いてくる。開くたびに時間軸を超えて届いてくる星野道夫さんの言葉。この本は僕にとって「書籍」というものの存在を大きく感じさせてくれた唯一無二の一冊。
同じ土地にたどり着き、その荒野で最期を遂げた二人をどこかで重ねあわせて見たかったのかもしれない。
人生には旅が必要。そしてそれは孤独と自由を愛し、その上で本当の幸せを見出すことに繋がる。
「幸福が現実となるのは、それを誰かと分かち合った時だ」
この言葉にどうやってたどりつくかが「旅」
聡明な主人公も、思慮の奥底でこの答えを感じていたのだと思う。そして、その答えを理屈を超えた世界で出会いなおすためにきっと旅に出たのだろう。
スクリーンの向こう側で最期を遂げ、一人荒野に残されたのは「主人公」ではなく、平和な日常にカウチで映画を観ている「自分」だということに気づかされる作品。