【読書感想】医療・ヘルスケアのためのデザイン思考実践ガイド

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毎週火曜日に身内で「読書HOUSE」というオンラインの読書会をやっているのですが、来月からFacebook x ZOOMで公開ぎみに行こうと準備をはじめています。

今回は、今週第28回目の読書会でご紹介した書籍、

「ヘルスデザインシンキング デジタルヘルス/ヘルステックに向けて:医療・ヘルスケアのためのデザイン思考実践ガイド」をご紹介します。

医療と「デザイン思考」の親和性

さて、この本ですが、病院や介護施設、医療機器など、「当たり前」になりすぎて見落とされがちな、不便や違和感を改めて「デザイン」しなおす方法と、その事例が数多く紹介されています。

医療に関することは、前述の「暗黙知」に通じるところがあって、たとえば、久々に病院に行くと待ち時間の長さや、咳き込む人に囲まれた狭い待合室など、不満や理不尽さとか違和感を大いに感じるのですが、通い慣れると、(働く人もしかりですが)「こんなもんだろう」と受け入れてしまうわけです。

病院は、人の命をあずかる緊張感高い空間なので、医師やスタッフなどの効率化や働き安さを重視して当然ですが、患者側の視点でデザインできていないところが多い場所でもあります。

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そうした場所をデザインしなおすのに、もっとも適した考え方が「デザイン思考」というわけです。

「デザイン思考」のメリット

あらかじめ、こういう場所を作りたい。という具体的なイメージが決まっている場合は、デザイン「設計」しやすいわけですが、抽象的なゴールや漠然とした<違和感のような>課題を発見しながら、改善して行こうとすると、「<デザイン>しながら試行・思考」していく必要があります。

たとえば、医療や病院のデザインの目的を「より人間らしさを感じるもの〜ウェルビーイング」と決めてデザインするとき、はじめから明確なイメージやゴールが見つからないわけです。

そこで、その課題や「問い」を抱え、現場に出向き、<ウェルビーイングのために>何をすべきか?を観察・発見しつつ、その場で手を動かしながら改善していくような手法論で考えていきます。

明確なゴールがなかったり、漠然とした違和感に対して自由度高くアプローチしていけるのが「デザイン思考」のメリットと言えます。

「デザイン思考」のメソッドを理解する

あらためて「デザイン思考とはなにか?」を考えてみたいのですが、この手法<メソッド>から見ると理解しやすいです。

1)観察

そもそもなにが課題なのか?課題や違和感、現状を「当たり前に受け入れてしまう」先入観を一度捨てて、その対象を観察しなおします。

そして、なぜそうなんだろう?と現場に出向いて問いかけるわけですね。

たとえば、飲料をデザインするときに、「こんなデザインならかっこいいので売れるだろう」と考えるのではなく、この飲料を飲む人はどんな人で、どんな場所でどんな風にこの飲料を買って飲むのだろう?

と飲んでいる人の観察を重ねながら試行錯誤していくわけです。

スタバの紙コップに段ボール製の腰巻きみたいのがついてきたりしますが、あれも、熱いコーヒーを直に触ると飲みづらいという観察からデザインされたものの一つです。

2)想像・創造

「熱いコーヒーを飲みにくそうに持って歩いている人がいる」という観察から、どうしたら飲みやすい「デザイン」になるか?を考えるフェーズです。

段ボールで巻く。というのもそうですし、紙コップそのものの耐熱性を高めるもそうです。

場合によって、手で持たずに首からぶら下げるようなフックをデザインしてみてもいいですね。

場合によっては、サービスのあり方を改善することもデザインです。例えば適温に冷めるまでカウンターに置いておいたり、気温や飲む場所にあわせて飲料の温度を調整する機能や機械をデザインしたり。

常識に囚われず色々な角度からアイデアを検討します。

3)制作

実施に試作して、試してもらいます。

<観察に戻る>そして、利用している人たちの行動様式や欲求や問題点などを観察し、時にインタビューしたりしながら、アイデアをブラッシュアップしなおすわけです。

デザイナーがデザインするのではなく、被験者が一緒にデザインプロセスに関わることも重要な要素です。

こうしたプロセスを繰り返していくことが「デザイン思考」です。

また、これら「観察」「想像」「制作」には、それぞれメソッドや手法論があって、その場で使い分けて行きます。

「デザイン思考」の原理を理解する

そして、こうしたメソッドを活用する上で、押さえておかなくてはいけない考え方<原理>が「人間中心」と「クリエイティブマインドセット」です。

これは、他の書籍でもほぼ同じなのですが、あらためて、医療現場においてより「デザイン思考」が求められるポイントして、重要な用語でもあります。

「人間中心」

デザインするときに、設計者やデザイナーの意図ではなく、常にそれを利用する人や人間の視点でデザインすること。

逆にいえば、利用する人を無視してデザインしてはいけませんよ。という原理原則に立ち返るわけです。

そのために、「観察」からはじめることが重要視されます。

そして、この「観察」の根幹にあるのが「共感」です。

客観的に観察しながらも、当事者目線といった主観に置き換える行為ともいえます。

「クリエイティブマインドセット」

観察から発見された「課題」を多くの人に深く理解共有していくために、問題をわかりやすく表現し可視化する技術<クリエイティブ>や試作しながら、課題を共有する<プロトタイピング>という考え方が重要になります。

これは、デザイナーや専門家だけでなく、ユーザーや多様な人たちと一緒にデザインしく上で重要な要素になります。そうした人を巻き込んでいくための方法も「デザイン」と呼べます。

様々な事例やメソッド

書籍では医療現場やヘルステックで活用されている豊富な事例が紹介されていますが、いくつか気になったものをご紹介しておきます。

フォトジャーナル

デザイン思考でよく使われる手法のひとつ。対象になるものを写真に撮って、そこから情報を整理していくという手法です。

たとえば、これはうちの体が不自由な子供用にバンボという座椅子に、車輪をとりつけて、電動で動くように設計しようとしていた時の写真です。

これを作るにあたって、誰にプレゼンをするわけでもないので、直感的にデザインしていくわけですが、多くの人等と一緒にこの課題をクリアしていくために、一度写真をみんなでみながら情報を整理してくわけです。

これもまた「当たり前」という既成概念を一度壊して問い直す行為にもあります。

デザインしていくと、そもそも間違えた方向に行きすぎてしまう場合がありますが、コデザイン(一緒にデザインする)という原則を考えても、こうした手法は有効なわけです。

データビジュアライゼーション

これは患者の既往歴と呼ばれる過去の健康状態を可視化したものです。

こうした工夫<デザイン>によって、初見の医師でもカルテで読み解く以上にパッと直感的に既往歴を理解することができます。

たしかに、何年何月に入院して、手術して、家で経過観察して、といった文字情報だけだと、その間回復してきたのか?悪化したのか?

また、その間にどのような処方や投薬をしてきたのか?

その理解によっては判断の正確性もかわってくるわけです。

ビジュアルアブストラクト

こちらもまた、専門的な情報を誰にもわかりやすく、短時間で伝えるためのデザインです。

こちらはテンプレートになっており、デザインする能力がなくても、それぞれのブロックにわけて文字と情報を配置していくと簡潔に表現できる仕組み<デザイン>にもなっています。

デザイン思考を応用したい人におすすめ

紹介されいている事例はたくさんありますが、ヘルステックに興味がなくても、「デザイン思考」を活用して、業務改善やプロジェクト構築したい人にとっても、置き換えながら有用なヒントが満載なので、ぜひご覧になってみてください。