ハイパーワールド 共感しあう自閉症アバターたち

かれこれ17年くらい前。SecondlifeにLive2Giveという小島があって、そこでは九人の脳性麻痺の人たちが「ワイルドカニンガム」という一つのアバターを共有して、仮想の社会生活を営む。という暮らしがあった。(もうすでにその島は存在していないけど)
当時、どんな場所だろうと何度か訪れていたことがあって、さっき探したら、当時の動画が残ってました。

その後。まさか当事者となって、この研究を始めることになるとは思ってもいなかったけど、たしかにメタバースには、多様な人たちの社会的障壁や障害を乗り越える潜在的な可能性があることに、当時から関心がありました。

当時担当していたNHKの教育番組でも、最終回にセカンドライフ(未来のインターネットの姿として)をとりあげて、耳の不自由な方がイキイキとコミュニケーションを楽しんでいる姿を取材しました。

仮想世界の作法に不慣れな人にとってみたら、彼女たちのほうが自由自在に楽しそうにワールドを楽しんでいて、メタバースでは時折こうした逆転現象が起きることにワクワクしたことを覚えてます。

池上英子さんの「ハイパーワールド」

多くの人からすでに、もう存在しないと思われているその「セカンドライフ」で、自閉症スペクトラムの自助コミュニティを仮想エスノグラフィーを通じて、丹念に取材し、その有り様を伝えてくれた貴重な一冊。2017年の著。

ハイパーワールド

ハイパーワールド

池上英子
2,803円(07/22 07:27時点)
発売日: 2017/03/04
Amazonの情報を掲載しています

丹念な取材と洞察が素晴らしく、改めてメタバースへの視座が広がったばかりでなく、米国において自閉症児の親たちが、市民運動として、脳や遺伝子研究のフィールドに介在し、多くの寄付を集め埋もれがちな自閉症研究に光をあてる活動など、そんなアプローチがあるのか!と目から鱗。
ちょうど、米国や英国の障害者福祉の勉強をしていたので、いろいろと腑に落ちるところもあり、より理解が深まりました。

米国と違って、日本ではなかなかそうしたロビー活動や研究者や医療従事者へのアクセスと当事者団体の接点にダイナミズムは生まれにくいけど、うちの子供のように、先天性の遺伝子疾患や脳性麻痺という、難治性の希少疾患ゆえに研究の光のあたらない分野においても、ネットやメタバースの時代だからこそできる、地域を超えたアプローチがあるのではないか?と希望を感じました。

さておき、この書籍で面白かったのが、自助グループの常連さんのアバターが

「ALL AVATARS ARE AUTISTIC(アバターはみんな自閉症的だ)」

というメッセージが書かれたパーカーを着ていた。
というエピソード。

なるほど。

セカンドライフのアバターはどこかぎこちなく、決まった動きを繰り返し、表情もどこか不自然で、目線が合わない。

テキストチャットでコミュニケーションしようとすると、少し遅れて、腕を宙に浮かせて、キーボードをカタカタ打つ、霊幻道士のキョンシーのようなジェスチャーをする。

この不自然さがNTと呼ばれるニューロティピカル(定型発達)<障がい者に対して健常者的な用語>な人たちにとっては、煩わしく感じる所作も、アバターコミュニケーションを通じて非定型発達者の視点を追体験できると考えると興味深いし、僕のようなネット好きやギークにとってみたら、少なからずとも、こうした作法にシンパシーがあります。

セカンドライフに音声チャットが導入されたときに、反対運動が起きた。と言う話も、その視点でみれば納得。

たしかに、ZOOMも含めて音声や映像チャット全盛の時代、その機能によって奪われている機会もあるのだと理解しました。

メタバースの可能性とニューロダイバーシティ

あと、この書籍でもギークと自閉症という考察もあるけど、デジタル社会と非定型発達の当事者の相性はとてもよく、いろいろ自分の中に心当たりも多く、再発見の連続でした。

いま、多くのメタバース事業が、勢いを落としているように見えるけど、NTな視点だけでこの世界を眺めると、見落としてしまっているものが多くある気がします。

ニューロダイバーシティな世界と改めて邂逅するための、ひとつのチャネル。これが社会にもたらすインパクトはまだまだこれからなのだと思います。

ということで、アカウントが眠っている人も、まだ未経験の人もセカンドライフで久々に語り合いましょう。待ってます。

ハイパーワールド

ハイパーワールド

池上英子
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