度肝抜かれる褒め殺しドキュメンタリー「THE YES MEN」

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WTO(世界貿易機関)の代表として米国の(CNBC)に出演している、Granwyrh Hulatberi氏。これ、番組は本物だけど、出演している彼は偽物。そもそもGranwyrh Hulatberi氏という人も存在しない。でも、番組に堂々と出演してしまっている。

たとえば、フジテレビのニュース番組に原子力の専門家である東京大学大学院の田中太郎(偽)教授が登場しその問題についてもう一人のゲストと討論していて、番組関係者もまったく本人に気づく事がない状態のままオンエアーされている感じ。

番組だけでなく、彼らは世界中の講演会や会議に出席し地元のメディアにWTOの代表として取り上げられている。

一瞬。意味がわからない。というか、ありえない。モキュメンタリーにも見える、本物のドキュメンタリー。

つまり、彼らは完全にWTOの人物に成りすまして、メディアや講演活動を続けていて、WTOの功罪をまったく画期的な手法で訴えているのだ。

その方法というのが、「THE YES MEN」の名の通り、いっさいWTOを批判したり糾弾する(NO)ことなく、むしろ(YES)「ほめ殺す」ことで、逆説的に批判している。ある意味でのユーモアというか、お笑いを利用したテロリスト。

驚く事に、彼らはこの活動のため、ターゲットとする企業や団体、(WTOの前はブッシュ前大統領)の偽ホームページを巧妙に作成し、「ほめ殺す」ことで比喩的に攻撃しているのだが、そのサイトが偽サイトと気づかず、様々な質問メールやテレビの出演や講演の依頼に対し、きちんと答えている。その結果、番組や講演に呼ばれてしまっている。

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このドキュメンタリーで驚いた3つの事

プレゼンテーションが色々な意味ですばらしい

まず、驚くのが彼らの講演や番組での受け答え。実に堂々としているどころか、非常に巧妙で説得力のあるプレゼンテーションで高度に欺いている。

すごく知的で綿密なユーモア。むしろ、彼のプレゼンテーションが批判を交えたパロディであることにほとんどの人が気づかない。

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どころか、絶対におかしいだろう!という奇妙な衣装を用意し、わざわざCGで再現する懲りよう。すごくお金をかけている。たとえば、WTOが開発したという嘘のスーツを大まじめなカンファレンスで見せるシーンがあって、後進国の労働者を遠隔的に雇用することで、ほぼ奴隷のように低賃金で働かせ、本人は体に装着された遠隔モニターを利用し自由にバケーションを楽しむ事ができる)というプレゼンに、誰も疑問をもつどころか、次の日の新聞に公式に発表されてしまっている。

これに気づかない会場の聴衆者が更におかしい。

彼らの活動が寄付で支えられている事

ジョージクルーニーやオールナイトニッポンのテーマソングのトランぺッター、ハーブアルバートなんかが、彼らのスポンサーになっている。

もっとも、こうした活動を身銭と体を張ってやっていたからに違いないけど、こうした活動に寄付金があつまるアメリカという国も面白い。

ユーモアというクリエイティブ力

そうそう、このドキュメンタリー映画は「松島x町山の未公開映画を観るテレビ」で2週に渡って放送されたもの。

番組での紹介文が「グローバル化に逆らうお笑いテロリスト」とあったので、ブッシュのお面でもつけて毒舌コントでもやっているかと思いきや、そんなことはない。

たとえば、「ニューヨークタイムスの号外(もちろん偽物)」を120万部も発行しニューヨークで配布したり。サイトもこれが実にうまく作られている。広告バナーですら、批判を交えたパロディーになっている。
The New York Times - Breaking News, World News & Multimedia.png

ユーモアとデザイン。思いつきで暴言をはく事は容易い。でも、徹底してデザインしきるからこそ、批判されているほうも簡単に抵抗できない。

実際に、先般のWTOやブッシュなどからも訴えが起きたのは、ロゴの意匠を無断利用したという一回だけだそう。

あきらかな反対運動だとメディアの露出も低いが、ユーモアあるクリエイティブな肯定的批判運動だと、ここでわざわざブログに書いているように、伝播する影響力も大きい。これもクリエイティブの力。

アイデアで世界は変えられる。真っ正面からのクリエイティブチャレンジもあれば、こんな角度からの活動もあるのかと度肝抜かれ、同時に勇気が湧いた。

DVDになったら是非観てほしい。

トレイラー(予告編)

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